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電子顕微鏡試料作製。前固定編。

ここでは、これまでSEMの試料作製の経験、観察の経験が無く新たにこれからSEMを観察の手段とする予定の方々のために、最も基本的な方法と、必要なものと手法について解説したページとなっております。
いろいろな試料へ応用が可能なのですが、生物試料として身近に生えている植物を例に試料作製の過程を示すことに致しました。

試料作製には基本となる手順があり、どの工程においても重要な役割がございます。
最終的な像観察の良し悪しはこれから解説していく前処理で決まると言っても過言ではありません。

どんなところに気を配り、どのような解釈をもって行っていくかも、サンプルによって様々です。
サンプル別の前処理についてはまた別の機会に解説することにし、まずは基本をマスターしていきましょう。

目次【内容】
  1. 試料作製の流れ
  2. 前固定に必要な器具類
  3. 前固定に必要な試薬・消耗品
  4. 固定液作成に必要な試薬の調整作業
  5. 苛性ソーダの作成
  6. 5%フォルムアルデヒドの作成
  7. 5%グルタールアルデヒドの作成
  8. サンプル採取
  9. 固定液の注入

試料作製の流れ

工程は、以下のような大まかな流れとなっております。

  • 採取:観察対象となるサンプルを採取します。今回は身近なもので、道端に生えている雑草の葉を使います。
  • 前固定:単固定、二重固定。固定とは新鮮な組織を化学的に処理することで出来るだけ生きた状態に近く安定化し、乾燥処理の間に組織がひずまないような処理を行うことです。
  • 固定液の洗浄:単固定、二重固定ともに、最初に使用された固定液を洗い流す作業です。
  • 後固定:固定液を使用し、二回目の固定を行う作業です。
  • 洗浄:後固定で使用した溶液を洗い流す作業です。
  • 脱水:濃度の異なるエタノールを用意し、段階的にエタノール置換を行う作業です。
  • 置換:100%エタノールから100%t-ブチルアルコールへ置換を行う作業です。

このページでは、サンプルの採取から前固定までを解説します。

前固定に必要な器具・試薬類

器具類

ピンセット
ピペット(5~6本)
メスシリンダー(100㎖、50㎖、10㎖用)
三角フラスコ(150㎖程度入るもの)
薬瓶
バイアル瓶
薬包紙
カミソリ(サンプルの裁断に使用する)
作業台(サンプルの裁断に使用する)
スターラー付きのホットプレート(湯煎が出来るものであればなんでも良い)
温度計(湯煎温度を測る)

試薬・消耗品

パラフォルムアルデヒド(粉末)
グルタールアルデヒド(25%溶液)
1N水酸化ナトリウム(苛性ソーダ水)
蒸留水又は緩衝液(りん酸緩衝剤を用いるのが一般的)

固定液作成に必要な試薬の調整作業

※固定液を扱う際は、ゴム手袋、ゴーグル、マスク等をして、粉末を吸ったり溶液に触れたりしないよう注意してください。
固定液にはフォルムアルデヒドとグルタールアルデヒドという試薬が広く利用されます。
1種類の固定剤を使用する場合は単固定、2種類の固定剤を使用する場合は二重固定と言われます。

苛性ソーダの作成

水酸化ナトリウムの容器に記載されている分子量は40ですので、1ℓの蒸留水に40gの水酸化ナトリウムを溶かせば1N(ノルマル)の苛性ソーダ水が出来ます。
今回は200㎖作りたいと思いますので、200㎖の蒸留水に8gの水酸化ナトリウムを溶かし、よく混ぜます。

5%フォルムアルデヒドの作成

フォルムアルデヒドは、パラフォルムアルデヒドというポリマー状の粉末で売られています。これを分解し、モノマー状にする必要があります。
5%のフォルムアルデヒド溶液を作るので、100㎖の蒸留水に5gのパラフォルムアルデヒドを溶かします。
電子計りに薬包紙を敷き、パラフォルムアルデヒドの粉末を5g取り出します。

メスシリンダーで100㎖の蒸留水を計り、三角フラスコに移します。

そこへパラフォルムアルデヒド粉末5gを慎重に移し、蒸留水に浸します。

次にこれを湯煎にかけ、60℃~70℃に温めます。温度制御の出来るヒーターで温めると良いでしょう。三角フラスコの口はアルミ箔で覆い、温度計を差して温度をモニターします。

温まりましたら容器を取り出し、よくかき混ぜてください。このときはまだ、白濁した溶液のままです。
次に、苛性ソーダを1滴づつ垂らし、よく混ぜてください。白濁していた溶液が透明に変化します。

溶液の量に応じて苛性ソーダを1滴づつ追加して透明になるようにしてください。苛性ソーダを入れすぎてしまうと、アルカリ性になってしまうため、リトマス試験紙などを使って中性であることを確認しながら行うと良いでしょう。

溶液を保管しておく際はパラフィルムで密閉させておきます。

5%グルタールアルデヒドの作成

二重固定の際に使用するグルタールアルデヒドの濃度は通常2%~3%を使います。フォルムアルデヒドと1:1で割った際に2.5%濃度となるよう、あらかじめ5%のグルタールアルデヒドを準備します。
グルタールアルデヒドは今回25%の溶液を使いました。
10㎖用のメスシリンダーでグルタールアルデヒドを5㎖測り、50㎖用メスシリンダーに移します。次に、蒸留水を先ほどの10㎖用メスシリンダーに5㎖程度入れ、グルタールアルデヒドを濯ぐようにして50㎖用メスシリンダーに注ぎます。
さらに、合計で25㎖になるように蒸留水を注いでください。これで、5%グルタールアルデヒド溶液が25㎖作れました。

サンプル採取

サンプル採取の際は、自然の中で採ったものを乾燥させないことが大事です。可能な限り現地で最初の処理を行えれば理想的ですが、実験室に持ち帰るまでであれば、容器に水を入れてその中へサンプルを入れて持ち帰れれば大丈夫です。
今回のサンプルは、シクラメンの葉っぱを観察したいと思います。

サンプルを持ち帰ったら、観察したい葉の一枚を裁断します。裁断した葉をバイアル瓶にピンセットで移します。このとき、観察対象をピンセットでつぶしてしまわないよう注意が必要です。

固定液の注入

バイアル瓶にサンプルを入れ、固定液を注入します。
あらかじめ、5%のフォルムアルデヒドとグルタールアルデヒドを準備しましたので、1:1の割合でバイアル瓶に注ぎます。これで、2.5%の固定液にサンプルが浸され、前固定が始まります。
固定には時間を要するので、ローターにかけて1晩置いておきます。

ここまでが前固定の手順になります。次は後固定から脱水の手順を解説します。

記事監修

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