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透過型電子顕微鏡の支持膜作成について

支持膜

支持膜とは

電子顕微鏡観察における支持膜とは、観察対象となるサンプルを、グリッドと言われる円盤の上に保持する役割を持つ薄膜です。
光学顕微鏡では透明なガラスの上に観察したい切片を載せるスライドガラスがありますが、電子顕微鏡の場合は直径3mmの円盤に規格に沿った穴を開けたグリッドというものがあり、光学顕微鏡のスライドガラスと同様に、切片を支持する機能をもっています。

TEMgrid支持膜
< 支持膜の簡単なイメージ >

支持膜は、電子顕微鏡が医学を含む生物学分野に応用され始めた頃に観察目的の試料を薄い穴の開いた銅版に載せるために使用された事に始まります。この時代に使用された包埋樹脂はメタクリレート樹脂のため観察時に電子線による損傷を軽減する事から切片を支える支持膜の使用が不可欠でした。支持膜は、光学顕微鏡のスライドガラスに相当し、小さな粒子状の試料を支持する、又は超薄切片を支持する目的で用いられました。

包埋に電子線に比較的安定なエポキシ樹脂が使用されるようになると、通常の切片の殆どが150メッシュより小さなメッシュに乗せられるようになりました。
支持膜の素材は、カーボンをはじめ種々のプラスチック、プラズマ重合膜等が用いられそれぞれに利点、欠点があるため観察目的により適切なものを選択しなくてはなりません。
ここでは支持膜の作成法、使用目的による支持膜作成素材の選択法、色々な支持膜の作成法と支持膜を応用した試料支持目的以外の利用法を解説します。

目次【内容】
  1. 支持膜が必要となるもの
  2. 支持膜は・・・
  3. 支持膜に利用されている素材
  4. 支持膜の特徴と作成方法
  5. コロジオン( Collodione )支持膜
  6. カーボン(carbon)支持膜
  7. フォルムバール(Formvar)支持膜
  8. ブタバール(Butvar)支持膜
  9. ポリスチレン支持膜
  10. 支持膜の応用について
  11. 支持膜作成時のトラブル解決法
  12. 終わりに

支持膜が必要となるもの

樹脂に包埋された組織は、ガラスナイフ又はダイアモンドナイフで切削され、薄い切片としてそのままグリッドに乗せられます。小さな粉体、微生物などは直接グリッドに乗せることが出来ないため、グリッドにプラスチック又はカーボンの薄い膜を作成してグリッドに張りその上に目的の試料を載せて観察します。

開口部の大きな100、75、50、単穴、スリットメッシュと呼ばれる物は大きな面積を観察する場合に利用され、支持膜を張ったメッシュを用意しそれに切片を載せて観察します。理想的には切片の観察には支持膜を使用したくないのですが(ノイズが入るため)、広視野、低倍率観察には必要な方法と言えます。

組織を急速凍結し超薄切片を作成する場合は、グリッドの穴径問わず支持膜が必要です。また、ネガティブ染色、シャドウキャスティング法を行う場合も必要です。

支持膜を必要とするものをまとめます。

  1. ネガティブ染色、シャドウキャスティング法を行う場合。
  2. 連続切片をスリットメッシュに載せる場合。
  3. 開口部(穴径)の大きなグリッドに切片を載せる必要がある場合。
  4. 電子線に不安定な樹脂を包埋に使用した場合。
  5. 小さな切削面を持つ試料全体を観察したい場合。
  6. 極端に薄い切片を観察する必要がある場合。
  7. 小さな試料を載せる場合。(粉体、レプリカ膜等)。
  8. フリーズレプリカ膜の観察をする場合。
  9. 凍結ミクロトームに拠る切片をグリッド載せる場合。

支持膜は

開口部の大きなグリッド、例えば100メッシュの場合薄い膜を張った場合には僅かな力で敗れ易い事と開口部と周辺を比べると僅かに凹む事があります。
弛まないように膜を厚くして弛みを防ぐと全体的な厚さが増して支持膜によるノイズが像に現れます。開口部の大きなグリッドにはやや厚めの支持膜、反対に小さな開口部を持つ300、400メッシュグリッドでは薄い膜を張る事で支持膜のノイズを少なくする事が可能です。

「どの様な試料を観察するのか?」によりメッシュの大きさを決め、グリッドの穴の大きさを考えて支持膜の厚さを決める必要があります。

支持膜に求められる性質
支持膜に求められる性質としては以下のような特徴があげられます。

  1. 熱に対して安定していること。
  2. 高倍率でバックグラウンドに粒状性が認められないこと。
  3. 親水性であること。
  4. 切片と密着性が高い事。
  5. 作成が容易である事。
  6. 保存した支持膜は長期保存が可能である事。
  7. 素材、溶剤に毒性が無い事。

などがありますが、これら全てを満足するような素材は残念ながら今のところは見つかっておりません。では、最低限求められる性質はどのようなものか示します。

  1. 電子線に対して安定である事。
    (電子線照射により物理的な変形、昇華が少ない事。)
  2. 電子線の透過率が良い事。(電子線の散乱が起こらない事。)
  3. 物理的強度があること。
  4. 膜は無構造である事。
  5. 薄い均一な膜の作成が容易である事。

などがあげられます。どんな支持膜でも長所短所があることを考え、観察目的に合った支持膜を探すことが必要です。

支持膜に利用されている素材

  • フォルムバール
  • ブタバール
  • カーボン、グラフィアイト
  • ポリスチレン(Polystyrene)
  • コロジオン(Nitrocellulose)
  • プラズマ重合膜(ナフタレン)

等がありますが、この他の素材も使用されており、いずれの場合にも利点、欠点があります。過去に試験された支持膜の素材としては次の様なものが報告されています。

  • ガラス         van Itterbeek (1952)
  • シリコン        Polivoda and Vinetskii (1959)
  • マイカ         Heinemann (1970)
  • バーミキュライト    Bumeister and Hahn (1978)
  • 金属(アルミニウム)  Muller and Koller (1972)
  • ベリリウム       Vollenweider et al (1973)
  • ボロン         Dorignac et al (1979)
  • タンタリウム      Peters (1986)

一般的に使用されているのはプラスチック支持膜で、この中にはコロジオン、フォルムバール、ブタバールをあげることが出来き、日常的にネガティブ染色に使用できる平滑な支持膜を作る事が出来る。コロジオンとフォルムバールは比較的親水性であるが、ブタバールはコロジオン、フォルムバールに比べてより疎水性が強く、カーボンフイルムは新鮮な状態でも強い疎水性を示すことが特徴となります。

支持膜の特徴と作成方法

次に、主な支持膜の特徴と作成方法を解説します。
特に、コロジオン支持膜とカーボン支持膜は最も一般的に利用されていますので、こちらは別途解説をまとめております。

コロジオン( Collodione )支持膜

コロジオンはエチルアセテート、アミルアセテート、アセトンに可溶性で、支持膜作成は取り扱いが容易である事から一般的に広く利用されています。コロジオンは10%、2%酢酸イソアミルアセテート溶液として市販されているので用途と使用頻度により選択する事が出来ます。

コロジオン支持膜の厚さは約30nmとすることが一般的と言われていて、この厚さはかなり熟練が必要です。実用上では特にコントラストを落とす事がありません。強度も充分期待できるのは干渉色が僅かに灰色かかった銀色の物が使用されます。
支持膜の強度は、水面にコロジオンを滴下して作成するより基板(スライドグラス、マイカ等)上で作成し、乾燥後水面剥離して作成したものがより安定していると言われていますが実際にはそれ程大きな差は経験的に認められません。

ところが支持膜を張ったグリッドを長期間保存すると、当初の親水性が失われ疎水性に変わると同時に膜そのものがわずかに脆くなる傾向があります。
可能な限り必要量を作成し使い切ることが、表面に汚染が付かないことを防ぐ意味では理想的と言えます。疎水化した支持膜はプラズマによる親水化処理等で問題なく使用する事が出来ます。

カーボン(carbon)支持膜

カーボン蒸着

カーボンの支持膜は無構造で電子線に対して透明度が高く、1~2nm程度の厚さでもかなりの機械的強度を持ち、導電性が高いために帯電を防止する事ができます。
カーボンの支持膜は特に高倍率、高分解能観察に有利ですが、作成時の真空度、蒸着速度、蒸着温度などで性質が異なってきます。純粋のカーボンは3500℃で蒸発するため高温に対する安定性は非常に高くなっています。

カーボン支持膜の欠点としては疎水性が強いため、試料が均一に膜上で広がらないことが挙げられます。カーボンフイルムの疎水性は冷蔵庫に保存する事や、親水処理を施すこと、可能であれば試料の懸濁液に少量のエタノールを添加する事で改善する事が出来ます。

また、カーボンはコロジオンやフォルムバール支持膜の補強という役割を持たせることができ、薄くカーボンコーティングすることにより電子戦のダメージを防ぐことができます。

フォルムバール(Formvar)支持膜

フォルムバールは2-塩化エチレン(ethylene dichloride)、クロロフォルム、ジオキサンを溶媒として用います。
支持膜の作成方法は水面に滴下して展開する方法とガラス、マイカ等を用いて水面剥離する方法のいずれかを用いる事ができ、出来上がった支持膜はコロジオンより電子線に対して強度があります。

欠点としてはガラス表面から剥離しにくい、均一の膜がコロジオンより作成しにくい、膜に小さな穴が開く事、コロジオンより疎水性が高いため試料が均一に広がらない、フォルムバールの溶液はコロジオンに比べて不安定であることなどが挙げられます。溶媒の気化が早いため水面に滴下しての方法は条件設定が難しいため、通常は溶媒の気中で膜を作成することが行われてきました。

フォルムバール支持膜作成方法

  1. 25mm以上の直径を持つエーテル磨り試験管又は標本用のボトルの底に25~30mmほどの深さに、0.3~0.5%フォルムバールのクロロフォルムかEthylene dichlorideの溶液を入れる。
  2. 清浄なスライドガラス、新しく璧開したマイカを浸し同じ速度でゆっくり等速で引き上げスライド、マイカの端が液面を離れたところで保持し溶媒の気相の中で乾燥する。
  3. 乾燥したらコロジオンの支持膜を水面で剥離する方法に従って膜を水面に浮かし、グリッドに回収する。支持膜は乾燥後使用する。

専用の膜張装置がフオルムバール膜張装置として市販されている。

ブタバール(Butvar)支持膜

ブタバールはOliver(1973)、 Handley and Olson (1979)により支持膜として使用されました。支持膜作成の容易さ、非常に親水性がある特徴を持っているため疎水性の試料のネガティブ染色に利用されました。支持膜そのものはコロジオン、フォルムバールより機械的強度が強く、グリッドへの接着性も高いと言われています。

支持膜の作成法は母液として0.25%のクロロフォルム溶液を作成します。クロロフォルムを50℃に温め0.25%になるようにブタバールを秤量し攪拌しながら完全に溶かします。完全にブタバールを溶解させた後、支持膜を作成する時には温度を40~45℃以下(室温よりやや高い程度まで)に下げて使用します。保温にはホットプレートを用いますが温度は50℃を超えてはなりません。支持膜をグリッドに接着するための方法として、グリッドをろ紙の上に並べ、ブタバールを一滴グリッドの上から滴下して乾燥後に使用します。

ポリスチレン支持膜

ポリスチレンは電子線に対する安定性が高いことから1975年にBaumeister and Hahn により発表されました。ポリスチレンは密度が低い(1.05g/cm)ため電子線の透過性が良い。支持膜の親水化には短波長の紫外線照射が有効と言われています。この支持膜は特別な膜の補強処理をしない状態で、強く収束した電子線に安定です。

使用する溶剤としてはベンゼン、エーテル、メチルイソプロピルケトン(イソプロピルアセトン)が使用出来ます。支持膜として使用する場合の欠点としては支持膜が脆い事、グリッドに対して接着性に乏しい事が挙げられます。

支持膜の応用について

マイクログリッドの作成

マイクログリッドは均一な支持膜に一定の大きさの穴を作りこの穴の部分に観察する試料を乗せて(引っ掛けて)観察したり、孔径が小さなものを作成してTEMの軸調整用に用いたりします。通常これらの支持膜はカーボンを少し多めに蒸着しておきます。軸調整用のマイクログリッドの作成法はいくつかあるので、別途まとめたいと思います。

正円の膜穴の作成法

  1. 通常の方法で銀色程度の膜厚を持つコロジオン支持膜を400メッシュに回収する。
  2. 膜が完全に乾燥している事が条件で、作成後一日経過すれば使用可能。
  3. TEM を起動し50 KV, 又は60 KV の高圧を印加、ビームが蛍光版上に確認出来る程度の明るさで蛍光版の中心となるように調整しておく。倍率は5000~6000倍程度に設定する。
  4. 試料ホルダーに膜面を上にしてグリッドを載せ鏡体内に入れる。
  5. 蛍光板上の膜とビームを見ながら明るさ調整ノブでゆっくりと蛍光板の輝度が高くなるようにノブを回して行くとわずかな時間で小さな穴が開くのが認められる。大きさは一定では無いがある程度の穴が開いたところでフイラメント電流を切ってグリッドを取り出す。

支持膜作成時のトラブル解決法

支持膜を作成する過程でよく起こる事象と対策について簡単に解説します。

水面にコロジオン、フォルムバールを滴下す場合に起る膜の皺
原因
滴下する液量が一度に水面に落ちなかった場合、膜の不均一が起こることがある。
対策
内側に円筒を置いてコロジオン、フォルムバールの広がる範囲を限定して滴下するプラスチック溶液の量を一定にする。コロジオン、フォルムバールを滴下した後、蓋を載せて内部溶剤の蒸気で満たす。
ガラスから膜が剥離出来ない
原因
原因の多くはガラス面の汚染にあると考えてよい。
対策
ガラス表面を石鹸、ハイター等で充分洗浄し流水で洗浄後、蒸留水によるリンスを行いラックに入れて乾燥する。その後、イオンクリーニングを行うと洗浄効果が高い。
水をはじくことを防ぐ方法は、イオンクリーニングが有効で効果が1日持続する。

フォルムバールがガラス基板から剥がれにくい
原因
フォルムバールはコロジオンに比べてガラス基板から剥がれにくい。
対策
清浄なスライドグラスの上にグリセリンの極めて薄い膜を塗布する。
石鹸で手先をよく洗い、グリセリンを指先にほんの僅かに付着し、スライドガラス全面に均一になるように塗布する。そのあと、余分なグリセリンをふき取り、塗布されていることが分からないくらい薄くコーティングしたのち、この面にフォルムバール、コロジオン等の膜を作成し水面剥離を行う。
また、あらかじめ極薄いコロジオンの膜を作成し、その上にフォルムバール膜を作成することでも水面剥離が容易になる。

終わりに

広く一般的に用いられている支持膜を中心に解説を行いました。
ここで紹介されているものが全てではありませんので、観察対象に応じて最適な方法を行ってください。

記事監修

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